炎がきえる、夜がおわる

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きれいや、この世界。
私が関わるには勿体無いと心から思う。
汚したくなくて、傷つけたくなくて、
愛したとき、手を離すしかなくなるから、
私は、何も望まないで生きよう、と思ったんだっけか。
 
それはむりだよ。
この世界では、望まないやつに、居場所なんて無いはずなんだ。
弱肉強食っていうのが自然の摂理じゃなかったかしら。
敵を喰らって、仲間を蹴落としてでも生き残ったやつが遺伝子を残せる。
それが すべての根底なのでは?
と、最近思う。
 
でも、遺伝子的に強いやつだけが残るわけじゃない この社会を見ていると、
生き残る強さの定義が違ってるんだろうなあって思う。
でも、弱いやつ かたわ者 が生き残るのが難しいってことだけは、昔から変わらないと私は思う。
 
以前、友達が話してくれたんだけど、
一人いなくなったって、世界はどうにでもなるんだ。当たり前のことだけれど。
私がいなくたって、この世界は、美しい。
とっても美しい!
うそじゃない。
 
私はいつも立ち止まる。なんてことはないと思ってた、いつもの帰り道、いつもと変わらない場所が、
突然見せる、さまざまな美しさに。まさかと思う。はっと息をのむ。
ピンク色に染まった夕暮れ空に、高くそびえるビルがゆらめいている姿。
木々のあいまに、日差しの強いコントラストと、色のとんだ飛行機が通ってゆく景色。
複雑に張り巡らされた電線が、いまこの瞬間にだけ見せるゆがんだ表情。
人間がはきだす排気ガスのにおいも、夜の交差点のとりどりのあかりを眺めていると、私には全部許せる気がしてくるんだ。
 
きれいや、この世界。
私は思う。
うそじゃない。
 
この気持ちが私の全部になればよかった。
でも、私はこの気持ちのために生きることは、結局できなかった。
人を笑顔にさせることができる、私の敬愛する、私の愛してやまない、あの人間たちのように、
誰かのために、何かのために、
力をつかって、泥にまみれて、
それでも最高に美しく、
生きてゆければよかった。
 
なんにも望まないと、ずっと昔に決めたはずだった。
一人ぼっちだったけれど、楽だった。
誰かの幸せを願ったつもりで生きていられたから。
「いい人間」になれた気で、いられたから。
深く関わらなければ、誰にとっても良い人でいられれば、
人は、少しは私を愛してくれるんだろう、と、気づいた。
 
でも、忘れてしまった。
私は、もっと深く関わりたいと思ってしまった。
私は、もっと自分をさらけ出したいと思ってしまった。
私のなかには、きっと教訓も、後悔も、何にも残らない。
 
望むから、私がわるい。
でも、望まなければ、生きてゆかれない。
でも、それはもうできない。
ぐるぐるまわって、
そうしたら、どうしたらいいか、わからなくなったよ。
どう前を向いたらいいか、わからなくなったよ。
 
もっと楽しめと、ひとは言う。
ぜんぶの最善を尽くしてから決めろと、ひとは言う。
私は、そうやって関わりあって生きてゆける、あなたたちが好きです。大好きです。
そこに私が存在できる、そんな景色が、少しでも見えたらいいのに。
そう思って、走りだしたんですよ。
そのことは、うそじゃない。
 
生きていれば、いっぱいいいことがあります。
楽しいこともいっぱい あります。
美しいものにたくさん出会えるでしょう。
私の愛する人間たちを、遠からず見ていられるでしょう。
でも、そこに私はいない。
どこにも、私はいない。
 
炎がきえる、夜がおわる。
灯したぶんだけ、朝がやってくる。
朝は私を裏切らない。朝はいつも私を迎えにくる。
辛いときも病めるときも、必ずここに来てくれる。
けれど私は、それに報いることは、一生できない。

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