おとぎ話のおわりに

朝日からうまれた私は、自由をえて、月のそばで歌っていた。
月は私を美しく照らした。私は毎日毎日、好きな歌を歌って幸せに過ごしていた。
あるとき、月の対極にある闇色を見つけた。その闇はあまりに深くて、あまりに美しかった。
私は歌うことを忘れて、うつくしい闇色をながめるのに没頭した。
そうしているうち、いつの間にか、そのなかに呑み込まれてしまった。
月を探したけれど、どこにも見えなくなってしまっていて、何も見えない。
行く宛もなくさ迷っているとき、その闇のなかで、一匹の獣と出会った。
獣は一寸先も見えない道を、一緒について歩いて助けてくれ、私に行き先を教えてくれた。
しばらく歩いたのち、闇から抜けだした私は、空に浮かび輝く、星に照らされた。
しかしその明かりに照らされた自分の姿を見て、そのあまりの醜さに、驚いた。
いつの間にか、大切にしていた歌も忘れてしまっていた。戻れないところまで来てしまっていたのだ。
希望をなくして、汚れた沼に落ちかけた私を、引き上げてくれたのは、太陽だった。
 
最後に私は、太陽とお話をする。
「あなたは太陽。
 かれは月。あれは闇。
 それは獣で、あれは星、これは沼。
 何者にだって、役目がある。果たされるべき存在理由がある。
 それでは、私は一体何なのだろうか?」
 
太陽は笑って答えた。
「あなたの名前を私は知っているよ。あなたの名前は、誰が何と言おうと、たった一つのもの。
 それを私は知っている。そして、私が取ったこの手は、あなた以外誰の手でもないものだよ。
 この会話も、この時間も、あなた自身と、わたしを繋ぎ、
 われわれが何者か、を作りつづけている、存在理由の一つ。
 …答えになってないかな?  それでも私は、そう思うよ。
 あなたが私を信じるなら、私はあなたの手を引き続けることができる」