吉凶飛んぶ

頭の向こうのほうで、さっきから
かすかな風鈴のような
金属を棒でつついたような音が
きんきん
って定期的に鳴る。
 
きっきっとん。
きっとん。
 
その正体を知ろうと思えば知れるし。
なんとなく現実的な想像もつくのだけれど、
 
きんきん。
きんきんとん。
 
 
十月。すべてをなくした。それはそれは全てのはじまり。
二月。悲しいことが起きた。嘘と、現実と、嘘と、まがいものの愛情、まがいものの殺意。どいつもこいつも従いきれず、かつ捨てきれず。
四月。切り捨てられるように全てを諦めた。諦めざるをえなかった。生き延ばしのはじまり。何度も何度も死のうと思った。
五月。いぬさんに連れられて、やさしいうたと新しい世界に出会った。それが私のいのちをつないだ。
 
   エンペラーめだか。丸太町ネガポジ。
   よなよな酒をのみ、音楽を語らう阿呆共。
   やさしい、うた。
   ちいさな、濃い世界。
   新しい、おんがく。そして人間たち。
   世の目をはばかるように、そこに棲んでいた。
 
六月。新しいものと、過去の自分がいりまじり交錯。けっきょく。苦しくなるのだ。
 
   むかしhiyokoで、梅田ハードレインの年末イベントに出させてもらったことがあった。
   その時私を見たひとが、別のバンドをやってみないかって紹介してくれた。
   それがホーリーあーだった。
   私の生活が落ち着かなさすぎて その話はすっかり流れてしまったけど、
   そのホーリーあーを、ようやく見に行こうと思った。
   二条nano。
   イヌガヨというバンドを、みた。
   うごけなかった。うごかれなかった。
   ロックンロールがぼくの、のどもとを突いた。
 
七月。連れられて、たくさんの新しい場所に出会った。ひとは、変われる。気持ちひとつだって言っていたそれを、私は信じられなかった。だれもかれも、言いたいだけで、甘えてばかりで、嘘ばかりだと思った。
八月。何度も何度も説得されて、半信半疑で、はじめてみよう、と思った。信念、こころの力。愛情の力。なんども私は疑って、なんども私は終わりにしたがった。
 
   くるくるめまぐるしく色を変える世界のなか、
   忙しい世界のなか。私は、少しずつ、新しい未来について考えるように、なった。
 
九月。富山県 おわら風の盆に行った。祭りというものの力。ただそこに、つながり、続いてゆくもの。それらのみせる、蓄えられた力。うねりと旋律と爆発。私にとって大切な、不可欠な、それは一体、何なのだろうか。
十月。めまぐるしく、なにかを考える暇も与えないで、過ぎる日々だった。その中で大事なものが変わっていった。引越しせねばな、となってから、日々がとても速かった。出ていかねばならない。現在と、過去。晴れないもやを消し飛ばすために、とてもたくさんの力が必要だった。目まぐるしさの中で、大事なものが変わっていった気がした。それはそれは、それは、恐ろしかった!
十一月。引越し先が決まる。手続きやら色々なことを、ひとつずつ整える。いらないものを、捨てた。あのとき、あのころ、確かに手に入れたものを、捨てた。捨てた。捨てた。自分の身を、皮を剥いで、削りとって、一枚、一枚、捨てていくようだった。
 
   確かなものなんて、ない。
   ずっと守ろうとしてきたもの。
   それだけは誰にも奪われないように、掴んで離さないできたつもりだったもの。
   手に入れたかったもの。
   捨てて行った。
   どうせ誰も、一緒にはいられない。どうせ誰にも、わからないさ。
 
十二月。ひどい風邪をひいた。咳が止まらない。医者に行っても薬が効かない。息をするな、と言われているようだった。何かの罰を一身に受けているようだった。もうやめておくれ。もう何もいらん。やるならやれ。そう思った。思い続けた。
 
   そのなかで、再び、イヌガヨを見た。
   ロックンロールが、私に呼吸を許してくれた。
   ああ、私はここでなら、生きられるんだ。
   ・・・死にとうない。死ぬのはいやや!
   このまま、死ぬのは、いやや。
   このままじゃ、絶対、絶対、いやや!

少量る

きのう。
荷物が運ばれてくる前、新居の床で、
引越し業者さんの到着を待って、
つめたいフローリングの床の上、転がった。
つめたい。
 
言い忘れたことがいっぱいある。
話すタイミングは結構あったはずなのにな。
 
もらったチロルチョコレート
左のポケット入れてた。
すぐ食べようと思って
でも、いざ取り出してみると、なんだか食べられなくて
そのまま またポケット戻す。
何回か繰り返して
お守りみたいになっちゃって
ポケット手つっこむたびに気づいて
あーこれ、溶けちゃうな、食べないとなーとか
頭ん中がまわりだしたら そこから色々考えたり 思い出したりもする。
 
よなよなエールを買うと決めてたのに、いつも置いてたコンビニに無くなっててがっかりしたこと。
そのうたを少し、作ったこと。
君の言葉が今になって色々とわかったかもしれないなということ。
 
大きな声で歌ってても
遠すぎるよ、まるで。

基地側きっちん

キッチンに立っているのがいけなかった。
いのちを扱うだなんてもはや
雲の上の上のできごとや。
私の範疇じゃあない。考えられない。
 
ああああ。だめだ。こわい。
それは、いま。
たった、いま。
 
私が死ねば
いいのか、
わからない。誰にもわからない。
くるしい。かなしい。助けてほしい。
 
こわい。

生きてた

目が覚めたときに、
あれ、生きてるわあ、
って思った。
 
なーんだ。
 
なーんだ…
 
 
その日の朝は、あまりにまぶしくて美しかった。
ダンボール箱だらけの 引越し前の部屋で
最後のお昼ご飯を食べた。
 
外食もコンビニめしも
味が濃すぎて舌がびりびりする。
全然受け付けない。しょっぱすぎる。
お腹におさめたあと、全部吐き出して 水で洗い流したくなるような
 
辛いものは好きなんだけどな。
塩辛いものも、元々好きなはず。
 
食べるということに、以前ほど興味がわかなくなっている。
もともと美食にも全然興味がないのだけれど、
おいしいものは、私にとって、一人で楽しめるほど興味があるものじゃあないんだよなあ。
 
そうでなくとも、いろいろとね。
 
死んでるなあ
いけないなあ。
 
でもなんで?
どうして?

最後の選択

最後の洗濯終えて、家を出た。
働いたあと 夜は 狼煙とゆうバンドのデビューライブみに行った。
うん。
 
今夜は徹夜で荷造りだった。
明日、引越し。新居に荷物が移動します。
 
この場所で起こったこと、
片づけられないこと。
全部が溶け出して、にじみ出して、
何かが折れた。くずれた。
気が狂うかと思った。
このまま死んでしまおうかなんて
思った。
 
それをやり過ごせるかどうか、なんて、運なんだろう。
紙一重の、運だ。
うすっぺら一枚の違いで、
死ぬだろうし、生きるだろう。
 
誰かじゃない、きみがいい。
 
 
あー
こわい
ねたい
ねれない
こわい
ダッシュでにげたい
でも
 
どこへ

無恥なる幸福

幸せなやつらは、安全な場所からデリカシーのない言葉を平気で吐き逃げするからきらいやわー。
私もそのたちやな。
 
いかに人間、自分さえ幸せやったらいいかゆうことですかね。
私もそのたちです よ。
 
たまにそれを微塵も感じさせない人もいるんだけどね。
なんなんだろうな、あれは。
天使か何かかな。
うらやましー
 
CD買うた。とても緊張した。
初めて会うひとが、私の大切な漫画を持ってきた。
そんな感じで不思議やった。
 
大阪へ帰ってくるひと。
東京へ出て行くひと。
 
わたしは京都をはなれます。

あたまの中で鳴った おと

あれから一度も聴いてもないのに、
あたまの中で 鳴った おと
 
色んなライブに行った。
どんなやつもステージの上で、命を燃やして輝いているようやった。
 
合う合わないとか好みの問題は別として
どの音楽にも私は もんくは言えんかった。
ただただ うらやましかった
 
あれから。
 
ずっと守ってきたつもりのものを全部なくした。
生き方、行く末をなくした私に、音楽がずっと問いかけた。
 
色んな場所に行った。
色んな人に出会った。
 
嬉しいことも 悲しいことも起きた。起き続けた。
変わり続けるひとのなか。
走り続けるひとびとの渦。
圧倒されて、うずもれる私がいて、
それを悔しいと思うのを
ずっとずっとこらえた。
 
ロックはもとから俺ん中にある、と言うたひとがいた。
朽ちるまで続けてみようと思う、と言うたひとがいた。
それぞれ命の燃やし方ってのがあると思う、燃やして生きてゆかねばならん、と言うたひとがいた。
楽しい瞬間なんてなかなか無い、ずっと苦しい、やめたろかと何度も思う、と言うたひとがいた。
楽しい以外、なんもねえ、バンドやらずにお前に自我が保てるのか?と言うたひとがいた。
ずっとバンドをやりたい、これからバンドをやることだけ考えているんです。と言うたひとがいた。
 
あれから。
 
目の前を走りだした人を、
止める理由なんてどこにもない。
ただ、私は呆然とした。
変わっていくもの。
変わっていくひと。
 
目の前でそれを見せつけられた。
本気で頭うたれた。
 
その時に、ふと、目の前で演奏していたバンドの音が、
まったく、かき消えた。
耳になにも入らなかった。
私の頭の中が一瞬、真空の、まっくろになって、
そのあとに流れたのは、
 
思い出したくもないのに、
頭のなか、何度も鳴り響いた、うた。
 
それで、気づいた。
 
自分は、生きたことなんか、なかったです。
生きたつもりで いてました。
 
おれはこれをやってみいな、生きたとはいえへんのやなあ。

大切なものは悲しいほど脆い 失えばなんだって美しい

この家を引っ越すまであと3日か4日というかんじ。
全般まったく片付いとらんけど。
 
ものが少しダンボール箱の中につめられ、広くなった部屋の真ん中に座り、
ここで起こったいろいろなことについて
少しだけ、考える。
 
そしてこれから先の一年。
それについて考える。
ゆらぎの多い自分のことだ、三日後に同じことが同じ気持ちで言えるなんて奇跡じゃないのかってぐらい、揺れていて、ぶれている。
 
一年。
過ぎてしまえば短い季節だというのはわかっている。
それでも、その積み重ねが、いま、ここ、なのだとしたら。
 
いずれにせよ、あけてみなわからない。
何もせんかもしれんし、しても途中で諦めたり、別の道で納得したり、説得されたり。
するかもしらん。
 
この安全な場所から、
死ぬかもしれんでも、致命的に傷つくかもしれんでも、
戦いに出ねばならんのか。
 
そして出ることは、ただの始まりだ。
苦しくてもしんどくても、
戦い続けねばならんのか。
 
いま持ってるものを、せっかく手に入れてきたものを、
すべて失うかもしれんでも、
それでも新しい場所へ向かわねばならんのか。
 
なんでだよ!
なんでそこまでして戦いにいくってんだ。
歌ってるあいだ、わらってるあいだ、走ってるあいだが人間か?
なあよお!
くそー!

12月17日(昼)

ついに職場で吐いた!
もちろん、トイレで。誰にもひみつで!
 
そろそろ咳でオエッてなるのが 徐々に激しさ増してたから、なるほどですね。
 
咳すること自体には慣れたもんで、
しんどいにはしんどいけど、やり過ごしさえすりゃいいということを覚えているから
あんまり苦しいとは思わないぐらいになったけど。
今日のこの、異様な胸わるさ。
 
みな戦いにゆくのか。
指名を果たしにゆかねばならんというのやろか?
でなければ、生きたと言えぬのやろうなあ。
 
ああ こんなに精神的にやられて吐き気がひどいのは久しぶりだ。
しかし後ろは向いてない。
前を向いたら あまりに無謀で無防備で
ちょっと怖いだけだろ。
 
頭うちぬかれて
ぼくはマル一日ぶんをぎゃく再生することんなった。
ああ。あれでよかったんだ!
きみの言う通り。
 
気が狂う前に、なんべん吐いたって
はちきれそうなったかって
戦いにゆかねばならん。
使命を、みつけにゆかねばならん。

おやすみ

おしまいの言葉としての おやすみ、に
私がおやすみ、とかえしたら
もう一度 おやすみ、って一言だけかえってくる。
 
それだけで
胸がつまるのは。
 
いつの間にかこんなにも
いっぱい になっていた ということは。
 
しらなんだ
 
目をとじても とても
ねむられなかった
 
疲れているのに ねむいのに
ぐるぐるまわる
けれど
かなしいとかじゃない。
こんな夜は ひさしぶりだった